医療の目的は人類の健康と永続
   
                                内科医  納  利 一  (68歳)
 医療崩壊、病院崩壊などの記事が目に止る。どう考え、どうしていけばよいか。
医療の目的が人類の健康と永続である、とすれば、明治以来、日本の医療は
目指す方向をまちがっているのではないか。あるべき医療を実践しつつ考える
鹿児島漢方の集い(実行委員長・神田橋條治)で毎年1回公開の座談会を開
き、ホームページ甲突川健康新聞で継続的に考えていくことにしている。本年
2月の集いで東西統合医療ひとづくり宣言を採択した。
東西統合医療ひとづくり宣言
 人の健康は心と体と気の調和。人間の健康と社会の健康は相互依存的な関係
にある。しかもその両者は自然の健康すなわち地球の健康に支えられなければ
存在しえない。
 現在の人間は百年後にはほぼ全員過去の人となる。明日の社会の健康を願っ
ての「ひとづくり」が今日の社会の最も大切な仕事である。
 医療の目的は現在および未来の人間の健康である。医療を職業とする医療人
は今日の医療を行いながら明日の医療人づくりをしている。すべての医療機関は
医療ひとづくり機構である、と言えよう。医療人が全人的調和の東洋医学的健康
観を持つようになれば、医療ひとづくり機構が東西統合医療ひとづくり機構となり、
人間、社会、自然が調和して人類社会が健康に永続していくことが期待できるで
あろう。
 「東西統合医療ひとづくり」から医療の健康を、医療の健康から人類の健康を。
                         平成20年2月11日 鹿児島漢方の集い
医 療 再 生
 現代農業2008年8月増刊は医療再生である。医療再生を目指す30本の論考
が紹介されている。ここに甲斐良治氏の編集後記を紹介したい。
 農文協は、医食農想(想は思想・教育・文化・伝承)の四領域をおもな活動領
域としている。この四領域は、市場原理に支配されてはならない社会共通資本
=生存財であり、この四領域から、農家・農村に学んだ「自給と相互扶助の思
想」で自然と人間が調和する社会をめざして活動をすすめてきた。
 ところがいま、この四領域において「医療崩壊」「食の崩壊」「農の崩壊」「思
想・教育の崩壊」というべき現象が起きている。その崩壊をもたらした原因は、
それらが、商品化=市場財化され、利用する一人ひとりが、たとえばモンスター
ペアレント、モンスターペイシェント、モンスターファミリーの言葉に象徴されるよ
うに、一方的な「消費者」と化してしまったことにある。だが崩壊のより大きな原
因であるグローバリズム・新自由主義の新奉者たちは、それに対して、市場原
理のさらなる導入=さらなる商品化・消費者化が解決策であるかのように主張
する。
 だがこうした「崩壊」現象は、社会的共通資本=生存財を利用する一人ひとり
が、消費者ではなく「当事者」として問題を根本からとらえ直すチャンスである。
「県立柏原病院小児科を守る会」による「コンビニ受診を控えよう」などのキャッ
チフレーズは、消費者から当事者への自己変革を象徴しているのではないだろ
うか。同様に、この4月からの「後期高齢者医療制度」によって、国民皆保険の
意義を当事者としてとらえ直す人びとが増えている。また後期高齢者医療制度
への拠出金と連動する特定健診・特定保健指導の問題からも、食をはじめとす
る生活習慣を当事者としてとらえ直す人びとが増えるだろう。
 「医は食に、食は農に、食は土(自然)に学べ」は熊本県菊池市の公立菊池
養生園診療所・竹熊宣孝名誉園長の言葉だが、農文協も、医食農想の再生は、
地域の医食農想が連携し、地域の自然・歴史などの個性に根ざした社会的共
通資本としての医食農想の地域資源を生かしつつ、医食農想を市場化・営利
化しようとする勢力とたたかうことから始まると考えている。
        この文章を平成20年9月2日 鹿児島県医師会報に投稿した。
        鹿児島県医師会報 2008(平成20)年10月 第688号に掲載された。
甲突川希望のメッセージ