第31回三方限古典塾(09.5.21) |
佐藤 一斉(1772〜1859)「言志四録 (その24)HP」 |
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1 人の過失を責むるには、十分を要せず。宜しく二三分を余し、渠をして自棄に甘 |
んぜず、以て自ら新たにせんことを覓め使むべくして可なり。 言志晩録233 |
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(意訳)人の過ちを責める場合に、そのすべてを責め立てるのはよくない。2・3割程は残 |
しておいて、その人が自棄を起こさずに自ら心を新たに入れ替えることを期待するのが正 |
しいやりかたである。 |
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(余説)過ちを犯した人を、あたかも自分は聖人君子の如く責め立てるのを見聞します。人 |
の過ちを責めることは、寛と厳との按配などなかなか難しいものです。相手の自尊心や耐 |
性、現在の心境やその背景など立場を代え、自分に引き比べて寛大に考えることです。 |
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宋名臣言行録「明なれども察に及ばず、寛なれども縦に至らず」(明らかなことでも、とこ |
とんまでは追い詰めない。寛大であってもわがままはゆるさない。) |
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孟子「言、礼儀を非る、これを自暴と謂う。吾が身、仁に居り義に由る能わざる、これを |
自棄と謂う。」(礼儀を破壊するは自暴、仁・義で行う自信がないのは自棄) |
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2 形迹の嫌は、口舌を以て弁ず可からず。无妄の災は、智術を以て免る可からず。 |
一誠字を把って以て槌子と為すに如くは莫し。 言志晩録235 |
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(意訳)具体的な証拠があるような疑いを受けた時は、口先で理屈めいて弁解しても効果は |
ない。正しい道を踏みながら被った災いは、智恵や手段で免れることは難しい。ただごま |
かしのない誠実さのみをもって、これを打ち出の小槌として対応する意外にはない。 |
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(余説)「明らかに自分に責任があることはもちろん、天災のような不可抗力の災害でも、誠 |
実な応対をするしかない。」と言ってみても、先日最高裁で犯人が死刑判決を受けた和歌山 |
市「ヒ素入りカレー事件」の被害者は、どう納得すればよいのでしょうか。 |
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近思録「嫌を避くる者は、皆内足らざるなり。」(人から疑われないか疑いを気にするのは凡 |
人の常情けだが、それはまだ修養が十分にできていないからだ。) |
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3 鋭進の工夫は固より易からず。退歩の工夫は尤も難し。惟だ有識者のみ庶幾か |
らん。 言志晩録236 |
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(意訳)勢いよく物事を進めるのは、言うまでもなく易しいことではない。しかし、もっと |
難しいのは後戻り(隠退)することだ。それは識見の高い人のみができる。 |
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(余説)政治家や経営者の定年制が話題になるなど、人生の引き時は難しいものです。政策 |
の策定と修正、戦の進撃と撤退、企業の起業と縮小など何れもそうです。それは、信長の |
越前朝倉攻めで秀吉が申し出た殿、太平洋戦争の開戦と終戦などでも同じです。 |
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菜根譚「事を謝するは、当に生盛の時に謝すべし」(官位を引くのは全盛の時にせよ。) |
老子「持して之れを盈たすは其の已むに如かず。揣えて之れを鋭くするは、長く保つべか |
らず。功遂げ身退くは天の道なり」(いつまでも器をいっぱいに満たし続けようとするの |
は止めた方がよい。鍛えに鍛えて鋭くした刃は長くは保てない。仕事をやりとげたなら |
さっさと身を引く。それが自然のはこび方というものだ。」 |
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4 人の事を做すは、須らく緩ならず急ならず天行の如く一般なるを要すべし。吾 |
が性急迫なれども、時有りて緩に過ぐ。書して以て自ら警む。 言志晩録211 |
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(意訳)人が何かを為すには、ぜひともゆっくり過ぎず、急ぎ過ぎないようにして、太陽や |
星と同じように自然にの動く必要がある。自分はせっかちな性格だけれども、のんびり過 |
ぎる時もある。ここに書いて自らの戒めとしたい。 |
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(余説)仕事にはそれを為すに適正な早さがあります。政策、経済、医療、教育など何れも |
そうです。「緩急宜しきを得る」「緩急自在」とも言います。また「自己の性癖の傾向を知 |
って自戒する」ことも教えています。 |
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菜根譚前「事、これを急にするも白らかならざるあり。之を寛くせば或いは自ずから明ら |
かならん。躁ぎ急ぎて以て其の忿を速くこと毋れ」(物事は、それを急いでしても明ら |
かにならないことがあり、これをゆっくりすれば自然と明らかになることもある。あま |
りに急いでやって人の怒りを招いてはいけない。) |
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孟子「進むこと鋭き者は、其の退くこと速やかなり」(出足が速すぎる者は、後退も速い。 |
初めから力を出しすぎるとその勢力は速く衰える。人生はマラソン) |
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