| 第22回三方限古典塾(08.8.21) |
| 佐藤
一斉(1772~1859)「言志四録(その15)」 |
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| 1, 少にして学べば、則ち壮にして為すことあり。壮にして学べば、則ち老いて |
| 衰えず。老いて学べば死して朽ちず。 |
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言志晩録60 |
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| (意訳)幼少の時にしっかり学んでおけば、壮年になって何かをなし遂げることができま |
| す。壮年の時にしっかり学んでおけば、老年になって衰えることがありません。老年 |
| になって学んだことは死んでもその功績が朽ち果てることはありません。 |
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| (参考)幼・少・青・壮・老年のライフステージをトータルとして見る、しかもその後半 |
| 生を重く見るということは東洋に生まれた思想だと言われます。その境界の年齢が何 |
| 歳かを決めるのは当人の気持ちや心の状態であることはもちろんです。 |
| 学ぶことは何かのための手段でもありますが、学ぶそのこと自体の喜びが人間とし |
| ての尊厳を保ち続けて生きることにもなります。それが生涯学習でもあります。 |
| 近思録 「不学便老而衰」(学ばざれば便ち老いて衰う) |
| 老 子 「死而不亡者壽」(死して亡びざる者は命長し) |
| 言志後録 「此の学は吾人一生の負担なり。当に斃れて後已むべし」 |
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| 2, 我れは当に人の長処を視るべし。人の短処を視ること勿れ。短処を視れば、 |
| 則ち我れ彼れに勝り、我れに於いて益なし。長処を視れば、則ち彼れ我れに勝 |
| り、我れに於いて益有り。 |
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言志晩録70 |
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| (意訳)私たちが人を評価する時には、その優れたところを注意してよく視て、劣ってい |
| る点は視ないことです。短所を視ると、自分が相手より優れていると考えて傲る心が |
| 生まれ自分のためによくありません。長所を視るということは、相手の自分より優れ |
| ているところを視ることになり、自分にとってとても有益です。 |
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| (参考)分かってはいても、他者の長所を認め短所を見ないということは意外と簡単では |
| ありません。それが人間が本来持っている弱い一面でもあります。一方では自分の短 |
| 所と他者の長所には敢えて目を閉じてしまうことも否定できません。そのことは、人 |
| に限らず集団・国・民族・民族・文化・宗教についても同じかも知れません。 |
| 菜根譚 「人の短処は、曲に弥縫を為すを要す。如し暴きて之を揚ぐれば、是れ |
| 短を以て短を攻むるなり。」 曲に弥縫を為す(細かに心を配って取り繕う) |
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| 3, 霊薬も用を誤れば則ち人を斃し、利剣も柄を倒にすれば則ち自ら傷う。学術 |
| も方に乖けば、則ち自ら戕い又人を賊う。 |
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言志晩録84 |
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| (意訳)優れた薬も用法を誤ると人を損ないます。よく切れる刀も逆さまに持てば自分を |
| 傷つけます。同じように、学問や技術もその使い方を誤ると自分を損ない、人をも傷 |
| つけることになってしまいます。 |
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| (参考)物事は効果が大きく便利になった分だけ、そこからの副作用や危険性も増えてい |
| きます。また優れた性能のものほどその使い方は難しくなります。石油エネルギーや |
| 核エネルギー・コンピュータ技術などは現代における利剣といえます。 |
| 人類は山を削り谷を埋め空はおろか宇宙まで飛び出すまで何でもできるように、技 |
| 術面でのみあまりに進歩してしまいました。 |
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| 4, 才有りて量無ければ、物を容るる能わず。量有りて才無ければ、亦事を済さ |
| ず。両者兼ぬることを得可からずんば、寧ろ才を舎てて量を取らん。 |
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言志晩録125 |
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| (意訳)持ちまえのすぐれた才能や知識はあっても心の狭い人は、相手の言動を認めて受 |
| け容れることができません。一方度量があっても才能がない人の場合は、物事をなし |
| 遂げることができません。やむを得ずこの才能と度量の二つを兼ね備えることができ |
| ないのであれば、才能を捨てて度量の方をとりたいものです。 |
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| (参考)才能・度量を兼ね備えた人はなかなか見つかりません。度量は容易に把握し難い |
| こともあって、入学や採用などではとかく学力や積極性・表現力などの能力が優先し |
| て評価されているようにも思われます。今こそ「才を舎てて量を取らん」の意味を考 |
| え直してみたいものです。 |
| 老子に「賢を尚ばざれば民をして争わざらしむ」や鋭い刃は欠けやすく、真っ直 |
| ぐな良材ほど早く伐られやすいという教えもあります。良寛や西郷隆盛の生き方も参 |
| 考になりそうです。 |
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