膵臓の疲れをとり糖尿病や慢性膵炎の未病と軽症を完治させたい
                                  内科医  納  利 一  (66歳)
 明治以来日本が洋風化し、戦後アメリカとの一体化が進み、最近それが加速して
いる。食生活においても草食動物であった日本人が肉食動物の真似を始めたわけ
である。量的にも質的にも日本人の膵臓には負担が大きすぎて膵臓が疲れがちで
あると言えよう。膵臓の内分泌機能が障害されると糖尿病となり、外分泌機能が障
害されると慢性膵炎となる。
 漢方医は病気の前段階を未病と呼んで、この時点で適切な養生と治療をして完治
させることを目標にしている。
 外分泌を中心に膵臓が疲れてくると腹部異和感などに加えて、体の左半分にこり
と圧痛が出てくる。この病態を「消化器の疲れ」と呼んでいる。自覚症状と診察所見
はあるが、検査では異常所見を指摘できないのが特色である。この病態の診断と
治療については金原出版の漢方診療二頁の秘訣(2004年2月発行)に「圧診法に
よる『消化器の疲れ』の診断と漢方」と題して書かせてもらっている。治療の基本は
食事療法である。よくかんで腹八分。禁酒と低脂肪食。炭水化物を口の中で消化
してから飲み込む程度によくかむことを勧めている。まとめ食いをやめて、少量ず
つ3回以上に分食。薬物療法の基本は消化酵素剤である。漢方薬を処方するこ
ともある。この治療を「膵安静療法(外分泌)」と呼んでいる。完治することが多い。
 内分泌を中心に膵臓が疲れているのが糖尿病の未病であると言えよう。糖尿病
の未病や軽症には自覚症状がなく診察所見に乏しいのが特色である。過食や運動
不足から肥満傾向である人で血糖値やヘモグロビンA1C などは基準範囲内である
がインシュリンが高値である人が多い。このような病態を「膵臓の疲れ(内分泌)」と
呼んで食事療法と運動療法を開始している。
 腸からの糖分の吸収を遅らせる薬やインシュリン抵抗性を改善する薬が普及して
きた。降圧剤のARBにもインシュリン抵抗性改善作用があるとの報告がある。
 「膵臓の疲れ(内分泌)」をとることを目標に食事療法と運動療法を中心に、必要
があれば上記の薬物や証に合った漢方薬などを活用して、糖尿病の未病と軽症を
完治させていきたい。
                 鹿児島県医師会報 平成17年12月号 県医ロビー より転載